メリットたくさん!勤務間インターバル制度について

勤務間インターバル制度」とは、退社~翌日の出社までの間に一定以上の間隔(インターバル)を設けることで、労働者に対して十分な休息時間を確保すること目的とした制度になります。働き方改革の一環として「労働時間等設定改善法」が改正され、2019年4月からは、全ての会社に対して「努力義務化」されました。

➡今回は、勤務間インターバル制度を導入した場合のメリットや、制度導入のながれなどについてご紹介していきたいと思います。

勤務間インターバル制度導入の現状

先日お客様に勤務間インターバル制度についてお話する機会があったのですが、「うちの会社の勤務シフト(9時~17時)なら導入する必要性は感じられない。」といったお声をいただきました。勤務間インターバル制度の導入は「努力義務」であって、会社の「義務」ではありませんし、制度を導入していなくても「違法」ではなく、罰則などもありませんが、その制度の趣旨やメリットが正しく理解されていないと感じることがあります。

勤務間インターバル制度の導入割合

厚生労働省の「令和3年就労条件総合調査」によると、勤務間インターバルを導入している会社の比率は4.6%になります。一方、「勤務間インターバル制度の導入予定もなく、検討もしていない」会社の割合は80.2%にものぼります。

➡つまり、現状では95%以上の会社が勤務間インターバル制度を導入していないことになります。次に「勤務間インターバル制度の導入予定もなく、検討もしていない」とする理由について見てみると、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が57.4%、「当該制度を知らなかったため」が19.2%となっています。

労働条件総合調査では、「超過勤務が少ない会社は、制度を導入する必要性を感じていない」ため、勤務間インターバル制度を導入していない、もしくは導入の検討すらしていない結果となっていますが、見方を変えれば「超過勤務の少ない会社であっても、制度を導入するメリットがある」ということが広く認識されれば、制度導入に踏み切る会社も増えていくと考えられます。

勤務間インターバル制度の概要

冒頭で述べたとおり「勤務間インターバル制度」とは、退社~翌日の出社までの間に一定以上の間隔(インターバル)を設けることで、労働者に対して十分な休息時間を確保することを目的とした制度になります。勤務間インターバル制度について、もう少し具体的に見ていきましょう。

勤務間インターバル制度の具体的事例

勤務間インターバル制度を導入するにあたっては、いくつかの方法があります。事例として、始業時刻を9:00、終業時刻を17:00、勤務間インターバルの時間を11時間とする会社の場合で説明します。①~③のいずれの方法をとることも可能です。

■勤務間インターバルの設定方法■ ■具体例■
① 時間外労働により終業時刻が遅くなった場合、翌日の始業時刻は繰り下げるが、賃金計算上の労働時間は、就業規則上の始業時刻に就業を開始したものとみなす取扱い ➡例えば、23:00まで残業した場合、翌日の始業時刻は10:00としますが、9:00~10:00の1時間は通常勤務していたものとして取り扱います。この日の終業時刻は17:00となります。
② 時間外労働により終業時刻が遅くなった場合、翌日の始業時刻を繰り下げる取扱い ➡例えば、23:00まで残業した場合、翌日の始業時刻は10:00とし、10:00前に業務を開始することは認められません。
③ 翌日の始業時刻を後ろ倒しにせず、設定した11時間のインターバルを確保できるよう、当日の終業時刻を厳守する取扱い ➡翌日9:00の出社を徹底するため、22:00の終業時刻を厳守します。

インターバル時間の目安について
➡勤務間インターバル制度が努力義務であるため、そのインターバル時間についても明確なルールが設定されているわけではありませんが、以下のような根拠から、9~11時間のインターバルの設定が推奨されているようです。

① 11時間未満のインターバルが及ぼす健康リスクがデータで示されている点
② EUでのインターバル時間が11時間以上とされている点
③ 「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の支給対象要件となるインターバル時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」となっている点
勤務間インターバル制度導入のメリット

➡勤務間インターバル制度を導入した場合の主なメリットとして、以下のような点が挙げられます。

業務効率化による生産性の向上

勤務間のインターバル時間が十分に確保されていれば、万が一突発的な時間外労働が必要になった場合でも、十分な休息を取ってから出社することが可能になりますので、翌日の業務にも集中して臨むことができ、生産性の向上が期待できます。また、翌日の始業時刻を後ろ倒しにせず、設定したインターバル時間を確保できるよう、当日の終業時刻を厳守する取扱いとした場合、時間内に業務を終わらようとするために、社員が自発的に業務量の分配・調整等を行うようになり、結果的に業務効率化の効果が認められた事例もあります

社員の健康保持

十分な休息時間が確保されていれば、当然毎日ゆっくりと休むことができますので、社員の健康保持の効果が期待できます。社員にとっての「福利厚生制度」としても勤務間インターバル制度は有効な制度といえます。

残業時間の削減

勤務間インターバル制度導入により、全社的に残業削減意識が高まった結果、36協定の締結内容である年間上限(エスケープ条項)の時間短縮にもつながり、前期対比で10%以上の残業時間削減が達成できたという企業データもあります。

労災事故の防止(リスク回避)

適切な勤務間インターバルを設けることにより、労働者は休息時間を確保することができるようになり、労災事故の防止に繋がります。労働者の睡眠不足や体調不良により、重大事故が発生するおそれもあり、それらのリスクを未然に防止するためにも、勤務間インターバル制度は有効な制度といえます。

社員の退職防止

勤務間インターバル制度の導入により、十分な休息が保証される職場であれば、社員は安心して働くことができます。その結果、社員の定着率は高まり、社員の退職防止の効果が期待できます。また、近年はワークライフバランスの重要性が高まっており、制度として勤務間インターバル制度を導入することで他社との差別化を図ることができ、企業ブランディングの効果も期待できます

前に触れたとおり、「勤務間インターバル制度の導入予定もなく、検討もしていない」会社の割合は8割にも上ります。見方を変えれば、約8割の会社が、上記のメリットを受けられる可能性があるのに、その機会を逃してしまっているとも言えます。

また、令和3年就労条件総合調査における「終業時刻から始業時刻までの間隔が11時間以上空いている労働者の状況別企業割合」を見ますと、「全員」が34.8%、「ほとんど全員」が33.6%、「会社の4分の3程度いる」が6.8%となっています。つまり約75%の会社は、11時間以上の勤務間インターバルを設けているのと同様の状態にあり、実際に勤務間インターバルを制度化して導入しても支障が生じる可能性は少ないと言えます

勤務間インターバル制度導入のながれ

勤務間インターバル制度は努力義務であることから、明確なルールがありませんが、努力義務とはいえ、その制度の導入は「労働条件の変更」となるため、導入に際して、労使による話し合いと就業規則の変更(追加)が必須です。勤務間インターバル制度導入にあたっては、さまざまなアプローチやフローが考えられますが、今回は全業種に共通する一般的な手順についてご紹介します。

≪フェーズ1≫ 制度導入の検討

ステップ① 労働時間等に関わる現状の把握と課題の抽出

勤務間インターバル制度導入に向けた具体的な検討を始める前に、下表に示した点について現状を把握することが必要です。まずは就業規則等で定められている労働時間に関する規定を改めて確認します。そのうえで労働時間(時間外労働や休日労働の有無や長さを含みます。)、通勤時間等を把握し、インターバル時間が十分に取れているのか、十分に取れていないとすれば、対象となる社員がどのような理由でどの程度取れていないのかを確認します。なお、労働時間の現状を把握する際には、社員本人やその上司等から話を直接聞くことで、「現場の実態」を正確に捉えることが必要です。

■把握すべき労働時間等に関わる現状と課題■
(a) 就業規則(労働時間に関わる部分) (f) 勤務パターン(交代制勤務等の場合)
(b) 実労働時間 (g) 時間外労働時間(休日労働を含む)
(c) 時間外労働の発生要因 (h) 現在のインターバル時間
(d) 通勤時間 (i) 取引先等との制約
(e) 社員の労働時間に関するニーズ  

ステップ② 導入目的の明確化

勤務間インターバル制度の意義として「社員がインターバル時間を確保し、健康な生活を送ることができるようにすること」が基本的な目的になりますが、まずはそれが経営にとってどのような意義があるかを確認する必要があります。そのうえで、ステップ①で明らかにされた現状を踏まえて、「健康管理」、「長時間労働の是正」、「ワーク・ライフ・バランスの充実」等の具体的な導入目的を設定します。なお、導入目的は労使間で共有することが重要です

ステップ③ 制度導入に対する経営層の方針についての合意

勤務間インターバル制度を円滑に導入し定着させるには、社員と管理職が制度の意義をしっかりと理解する必要があります。そのためには、人事担当部署等の部署が、制度の意義と内容について丁寧に説明することが求められますが、それとともに経営層が制度の実施に積極的に関与する姿勢を明確にすることが重要です。具体的には、経営層が社員に対して積極的にメッセージを発信するなどして、「会社全体で制度の円滑な運用に取り組む」という強い姿勢をみせることが非常に効果的です。

■企業事例■
1ヶ月に1度、社長コラムを発信(住友林業株式会社)
➡年初の社長訓示や、1か月に1度、イントラネットに掲載する社長コラムにおいて、「健康の重要性」や「働き方と生産性の関係」等について触れる等、経営トップからの呼びかけを行っている。また、人事部においては、上長に対するアプローチを強化している。たとえば半年に1回開催する各部署長を対象とした会議で、人事担当役員からインターバル時間の確保を含む、働き方改革や生産性向上に関してのメッセージを繰り返し発信している。

≪フェーズ2≫ 制度の設計

ステップ① 制度の詳細の決定

勤務間インターバル制度導入に向けた事前準備が整ったら、具体的な制度設計に入ります。ステップ①では制度内容を検討します。主な検討項目は下表のとおりです。なお、各項目の検討を行うにあたっては、≪フェーズ1≫のステップ①で把握した労働時間等に関わる現状と課題を踏まえながら、労使間で十分に話し合うことが重要です

  ■検討項目■ ■概要■
(a) 適用対象の設定 ➡制度の適用対象となる社員の範囲を検討します。
(b) インターバル時間数の設定 ➡インターバル時間数(勤務終了時刻から次の勤務開始時刻までの間で、制度上確保すべき休息時間)を検討します。
(c) インターバル時間を確保することによって、翌日の所定勤務開始時刻を超えてしまう場合の取扱いの設定 ➡定められたインターバル時間を確保することによって、翌日の所定勤務開始時刻を超えてしまう場合の対応方法を検討します。
(d) インターバル時間を確保できないことが認められるケースの設定 ➡定められたインターバル時間を確保しないこと、または確保できないことが認められるケースの有無とその内容を検討します。
(e) インターバル時間の確保に関する手続きの検討 ➡インターバル時間の確保に関する申請手続き等の有無とその方法を検討します。
(f) インターバル時間を確保できなかった場合の対応方法の検討 ➡定められたインターバル時間を確保できなかった場合の取り決め(対応や措置)の有無とその内容を検討します。
(g) 労働時間管理方法の見直し ➡インターバル時間の確保の状況を適切に把握できるよう、制度導入を機に労働時間管理方法の見直しを行います。

ステップ② 規定の整備

上記≪フェーズ2≫ステップ①で制度を設計したら、その根拠規定を整備することが必要です。勤務間インターバル制度が確実に機能するためには、制度の明文化が必須になります。具体的には、就業規則の改訂労働協約等の締結等(※)により、勤務間インターバル制度を社内の「制度」として位置付ける方法が考えられます。
※ 労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する合意を書面に記し、両当事者が署名又は記名押印したものをいいます。

・勤務間インターバル制度の導入に関する規定例をご紹介します。ここに記載した内容のほか、インターバル時間の確保に関する申請手続きや労働時間の取扱い等についても、就業規則等に明記する必要があります。

就業規則(規定例)

1.インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす場合


(勤務間インターバル)
第〇条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2  前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。

2.インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複した時、勤務開始時刻を繰り下げる場合


(勤務間インターバル)
第〇条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2  前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時刻は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。

3. 災害その他避けることができない場合に対応するため、除外を設ける場合、上記1又は2の第1項に次の規定を追加します
  

  ただし、災害その他避けることができない場合は、この限りではない。

勤務間インターバル制度に関する労働協約(規定例)

第○○条≪勤務間インターバル制度≫
1  いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、 次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を設けるものとする。
2  前項の休息時間の満了時刻が、就業規則により次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、その休息時間が満了するまでの労働は免除する。
3  天災、事件、事故その他の不測の事態におけるやむを得ない場合、〇〇の場合については、この協定の対象外とする 。

≪フェーズ3≫ 制度の導入・運用

ステップ① 社内への周知

勤務間インターバル制度を導入し、円滑に運用していくためには、現場の管理職や社員の理解と協力が不可欠です。実際には「業務量が変わらないまま、勤務間のインターバル時間を確保することは難しい」といった不安を感じる社員の方々が多いのも事実です。そういった不安を減らす意味でも、制度導入の意義や、インターバル時間を確保するための工夫や取り組みについて、事前に周知することが大切です。

➡勤務間インターバル制度の周知は、制度導入時だけに限られるものではありません。勤務間インターバル制度は、労働条件の1つですので、その内容等について、継続的に周知することが重要です。また、勤務間インターバル制度の円滑な運用のためには、社内への周知だけではなく、お客様や取引先へも周知・説明を行い、制度の導入に対して理解を得ることも大切です。

ステップ② 制度を運用しやすい職場環境づくり

管理職の方には、社員の勤務実態を定期的に把握し、必要に応じて業務計画や業務量等の調整を行うことが求められます。また、社員の方々も、勤務間インターバルを無理なく確保できるよう、業務配分等に工夫したり、生産性向上のための取り組みを行うことが求められます。

≪フェーズ4≫ 制度内容・運用方法の見直し

ステップ① 制度の効果検証と課題等の洗い出し

制度導入から一定期間が経過したら、主に以下の内容について、労働時間の管理方法やインターバル時間の確保状況等を検証し、課題等を洗い出します。これらは制度導入後定期的に行うことが望まれます

■制度の効果検証と課題等の洗い出し■
(a)労働時間の管理方法 (f)適用除外理由の妥当性
(b)始業時刻がずれ込む場合の対応状況 (g)管理職の職場でのマネジメント状況
(c)インターバル時間未確保時の手続き (h)得られた知見
(d)社員の制度に対する意見 (i)導入目的に基づき期待していた効果/想定していなかった効果の発現状況
(e)インターバル時間の確保状況 (j)導入当初に想定していなかった課題等

ステップ② 制度内容・運用方法の見直し

≪フェーズ4≫ステップ①で課題が明らかになった場合には、制度内容や運用方法の見直しを行います。一定期間の運用後、勤務間インターバルが確保できなかった社員がどの程度いるのか、制度の運用自体に無理がなかったのかなど、管理職や社員へのヒアリングを行います。業務量は変動しますので、ヒアリングに関しては定期的に行う必要があります。

・「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」について
➡勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業事業主は、一定の要件を満たせば「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」の支給を受けられる場合があります。申請期限や支給要件に関する最新の情報は、以下の厚生労働省のホームページをご確認ください。

参考リンク:厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)

勤務間インターバル制度導入のすすめ

勤務間インターバル制度は、労働者が十分な休息時間を確保することによる健康保持を目的とした制度になりますが、健康保持だけでなく、生産性の向上、労働者の資質の向上、さらには労働者の定着率へのプラスの効果などさまざまなメリットをもたらす制度になります。日本においては、導入済みの企業割合が5%にも満たない状況ですが、実際には約75%の会社が11時間以上の勤務間インターバルを設けているのと同様の状態にあり、制度として導入しても支障は少ないはずですので、会社は積極的に勤務間インターバル制度を導入すべきだと考えます

EU諸国では、すでに勤務間インターバルを設けることが「義務化」されており、労働者の健康と安全の保護を目的として、24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与することが定められています。また、ギリシャ、スペインにおいてはインターバル時間が12時間に法定されています。勤務間インターバルの設定について、日本は現在「努力義務」にとどまっていますが、2025年までの制度の認知度と導入率の目標数値が設定されていることから、今後法定化・義務化される可能性も考えられます。早期の導入を検討される価値は十分にあると考えます。

当事務所では勤務間インターバルの制度設計や導入手続き、働き方改革推進支援助成金の申請手続きにつきましてしっかりとサポートさせていただきます。ご不明な点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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