現物給与(食事)の価額改定について

令和5年4月から現物給与(食事)の価額が改正されます。「現物給与の価額改正」と聞いても、「ウチの会社にはあまり関係がない」と思われる経営者様も多いと思いますが、飲食店小規模の事業者様にとっても、今回の現物給与の価額改正は意外と身近な問題となる可能性があります。

飲食店ではたらく従業員に、まかないとして食事を提供している。」、「現場作業の社員に対して、社長の奥様が作ったお弁当を昼食として提供している。
➡このような取扱いを行っている場合、「まかない」や「お弁当」は「福利厚生費」ではなく、「現物給与」として正しく通貨換算したうえで、社会保険料算定の基礎に含めなければならない場合があります。今回は上記のようなケースにおける社会保険上の適正な処理について解説していきたいと思います。

福利厚生費と現物給与の違い

飲食店ではたらく従業員に、無償(もしくは少ない従業員負担)で「まかない」を提供するのは「福利厚生のひとつ」であって、「現物給与」ではないと認識される方も多いと思います。「まかない」や「昼食としてのお弁当」は「福利厚生費」として取扱いできる場合と、「現物給与」として取り扱わなければならない場合があります。

福利厚生費とは

福利厚生費とは、「社員やその家族の生活向上、健康増進などを目的とした支出」のことです。なお、福利厚生費は「法定福利費」と「法定外福利費」の2つに分かれます。

(1)法定福利費 法定福利費とは、労働基準法、労働者災害補償保険法、健康保険法、厚生年金保険法などのさまざまな法律・法令によって定められた「事業者に負担が義務付けられている福利厚生の費用」になります。
(2)法定外福利費 法定外福利費は、法律で義務づけられていない福利に対して支払う費用を指します。 つまり、会社が独自で設定した福利厚生に対する費用です。 法定外福利費として扱うことのできる範囲は広く、住宅手当や家賃補助、健康診断の費用、レクリエーションにかかる費用などが該当します。

食事支給が福利厚生費として計上できる場合

従業員に対して、「まかない」や「昼食としてのお弁当」などを無償(もしくは少ない従業員負担)で提供する場合、そのすべてが「福利厚生費」として認められるわけではありません。それでは、どのよう場合であれば「福利厚生費」として認められるのでしょうか。一般的には、以下の3つの条件を満たす必要があります。

(1)全従業員を対象として支給されるものであること
(2)支給に要する費用の50%(半分)以上を従業員が負担し、且つ、会社が負担するの費用は、1人当たり月額3,500円以内であること
(3)社会通念上(常識)の範囲内での支給であること

➡つまり上記のいずれかに該当しない場合、福利厚生費としては認められず、従業員に対して、「まかない」や「昼食としてのお弁当」などを無償(もしくは少ない従業員負担)で提供するとした場合、それらは「現物給与」として通貨換算したうえで、社会保険料算定の基礎に含めなければならないということになります。

現物給与の価額について

社会保険料は、従業員の「報酬月額」を等級に区分し、その等級に該当する「標準報酬月額」をもとに決定されます。従業員が厚生年金保険の被保険者資格を取得する際には、その従業員の見込み給与額を届け出ます。また、毎年7月の定時決定時には、算定基礎届にて、その年の4月、5月、6月の給与額を申告します。これらの届出の際に申告する「給与」は、通貨で支払った賃金だけでなく、現物で支払ったものも含めなければなりません。これを「現物給与」といいまして、所定の方法で通貨に換算し、社会保険料の算定の基礎に含めなければなりません。

この「現物給与」の価額は、厚生労働大臣により定められています。「食事で支払われる報酬等」に関しては「1人1か月当たりの食事の額」、「1人1日当たりの食事の額」、「1人1日当たりの朝食のみの額」、「1人1日当たりの昼食のみの額」、「1人1日当たりの夕食のみの額」のそれぞれが、各都道府県ごとに決まっています。この食事に関しての「現物給与価額」が、令和5年4月1日より改正されます。改正となる現物給与の価額表は、以下のリンクよりご確認いただけます。

➡参考リンク:日本年金機構 「令和5年4月1日より現物給与価額(食事)が改正されます」

現物給与の通貨換算方法

従業員に対し、まかないや昼食を無償、もしくは少ない従業員負担にて提供している場合に、それらを「現物給与」として通貨換算し、社会保険料算定の基礎に含めていない場合、社会保険料の決定に誤りがある可能性があります。現物給与としての食事等を正しく通貨換算する方法としては、従業員が負担する割合に応じて、以下の3つのパターンに分かれます。

【自己負担額】なし

従業員が「自己負担額なし」でまかないや昼食を支給してもらっている場合は、「現物給与の価額表の額」が「給与」とみなされます。具体的には、神奈川県内の事業所で、まかないとして昼食が支給されている場合、1食あたり「270円」の現物給与が支給されていることになります。

【自己負担額】現物給与価額の2/3未満

従業員の自己負担額が「現物給与価額の2/3未満」の場合、「表中の額」から「従業員負担額」を引いた額が現物給与価額となります。神奈川県内の事業所で、昼食のみ食事が支給されている場合の具体例として、

【昼食1食あたりの現物給与価額】 270円
【昼食1食あたりの従業員負担額】 150円

➡上記の場合、現物給与価額(270円)の2/3は170円(1円未満の端数切り捨て)になりますので、従業員の自己負担額(今回の例では150円)は現物給与価額の2/3未満になります。よって、270円ー150円=120円が現物給与価額になります

【自己負担額】現物給与価額の2/3以上

従業員の自己負担額が現物給与価額の2/3以上の場合、「現物支給なし」として取り扱います。現物給与価額も0円のため、社会保険料の算定基礎となる給与へは算入しません。神奈川県内の事業所で、昼食のみ食事が支給されている場合の具体例として、

【昼食1食あたりの現物給与価額】 270円
【昼食1食あたりの従業員負担額】 200円

➡上記の場合、従業員の負担額は200円になり、従業員負担額が現物給与価額の2/3以上になりますので、現物給与価額の70円については給与に含めません

現物給与の適正処理

現物給与に関して、支給する回数が多かったりすると、その価額も大きくなります。そのような場合は当然に従業員の標準報酬月額にも影響してきますので、社会保険料を正しく決定する上でも「現物給与の適正な処理」は非常に重要です。

実務上、被保険者資格取得届、報酬月額変更届、被保険者賞与支払届、算定基礎届の届出の際、現物給与の通貨換算が必要になること、年度ごとに現物給与の価額が改正されることに注意のうえ、適正は処理を心がけましょう。

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