早期退職制度について考える ②

前回のブログでご紹介したとおり、「早期退職制度」は、通常の定年退職時よりも退職金が上乗せされたり、再就職のサポートが受けられるなど、社員に対する「福利厚生制度の1つ」として導入される制度であると同時に、会社にとっても大きなメリットをもたらす制度になります。早期退職制度をスムーズに導入するためには、会社にとってのメリット・デメリット、社員にとってのメリット・デメリットをそれぞれ正しく理解したうえで、社員とのコミュニケーションを図ることが非常に重要になります。

2回目となる今回は、会社にとって、早期退職制度を導入するメリットとデメリット、早期退職制度導入の手順や注意点などについて解説していきたいと思います。

早期退職制度を導入するメリット

会社が早期退職制度を導入することによるメリットはいくつか考えられますが、代表的なメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。それぞれ具体的に見ていきましょう。

人件費の削減

会社が早期退職制度を導入する最大のメリットは「人件費の削減」になります。中高年齢層の社員が増えれば、人件費の負担が大きくなりますが、早期退職制度は、社員の自由な意思で退職を選択できる制度になりますので、トラブルが起きることなく、人員の整理を行うことが可能になります。

➡早期退職制度は基本的に勤続年数の長い40代後半以降の社員を対象とする制度になりますので、効果的な人件費削減を図ることができます。業績が悪化した会社などでは、一方的な整理解雇を実施する前に、この早期退職制度を導入して人員整理が行われることもあります。

会社組織のスムーズな再編と若返り

早期退職制度を導入することで、会社組織のスムーズな再編と若返りを進めすことができるのも大きなメリットになります。早期退職制度がない会社では、基本的に社員は定年まで働くことになります。実際、少子高齢化により中高年齢層の社員が年々増えてきており、若手社員の活躍の場が限られたり、昇進ができないといった弊害も生じており、これでは若手社員のモチベーション向上は期待できません。

➡早期退職制度を導入し、会社組織の再編を積極的に進めることを示すことで、若手社員のモチベーションアップにもつながります。

若手社員のキャリアップ

前に触れたとおり、早期退職制度を導入することで会社組織のスムーズな再編と若返りを進めることが可能になります。その結果として、若手社員が活躍できる場面が増え、経験を積む機会を得ることで、若手社員のキャリアアップが期待できます。

➡長期的な視野でみると、早期退職制度は優秀な人材を生み出すきっかけとなる制度とも考えられます。

早期退職制度を導入するデメリット

会社のとって多くのメリットをもたらす早期退職制度の導入ですが、その反面、デメリットが少なからず存在します。それぞれのデメリットについて、具体的に見ていきましょう。

短期的なコスト増

長期的に見てみると、早期退職制度を導入することで、給与の高い中高年齢層の社員が少なくなることで、人件費の削減が期待できますが、早期退職制度を利用する社員が増えることで、退職金の割り増し等の優遇措置の結果、本来支払うべき退職金以上の支出が生じることになり、会社にとって短期的には損失が生じる可能性があります。

優秀な人材の流出

早期退職制度は、社員の自由な意思により退職を選択できる制度になります。会社側として、誰が早期退職制度を利用するのかを事前に把握することはできませんので、会社にとって必要な人材であっても、早期退職制度への応募によって優秀な人材が流出してしまうというリスクがあります。その結果、状況によっては業務に支障が生じ、生産性が大幅に低下することも考えられます。

➡早期退職制度の導入にあたり、退職金の割増などの優遇措置を設けるのが一般的であり、社員の早期退職制度利用を促進するうえで有効な方法となりますが、早期退職希望者にとって、あまりに有利な条件を設定してしまうと、会社にとって重要な人材までも流出してしまうというリスクが生じます。ですので、早期退職制度の導入は、一定期間内の応募人数の上限、対象となる社員の年齢や勤続年数などの条件を細かく設定し、計画的に進めることが重要になります

様々な誤解の発生

早期退職制度を導入する際には、事前に「早期退職制度の実施要領や応募基準」を社員に対して明示する必要がありますが、その際、制度の趣旨を正しく伝えることができないと、社員に対して「リストラされるのではないか」、「会社の経営危機なのではないか」等の不安を抱かせてしまい、社員のモチベーション低下にも繋がりかねません。会社としては、社員の正しい理解を得ることを第一に考えて対応することが求められます。

➡早期退職制度は、定年年齢前に、社員の自由な意思により退職を選択できる制度になります。したがって、希望退職制度やリストラとは異なり、「会社都合退職」ではなく、「自己都合退職」の扱いとなります。早期退職制度を利用して退職した社員が、離職理由を「会社都合退職」であるとして、雇用保険からの失業手当(基本手当)について、特定受給資格者として優遇されると誤解していたことから、退職後に労使トラブルに発展するケースもあります。こういったトラブルを防ぐためにも、早期退職制度について十分な説明を行い、社員の正しい理解を得ることが大切になります。

早期退職制度の導入のながれ

早期退職制度をスムーズに導入するためには、綿密なスケジュールを立てて、一定期間内の応募人数の上限、対象となる社員の年齢や勤続年数などの条件を細かく設定し、計画的に進めることが大切です。一般的な早期退職制度の導入のながれ、早期退職制度導入にあたって注意すべきポイントについて具体的に見ていきましょう。

目的の設計

早期退職制度を導入するにあたり。会社がまず最初に行うべきことは、なぜ早期退職制度を導入するのか、その目的を明確に定めることになります。制度内容を社員に周知する際、その導入目的が明確でなければ、社員に不安を抱かせてしまい、モチベーション低下にも繋がりかねません。「社内組織を活性化するため」、「社員のセカンドキャリア形成を支援するため」等、どのような目的で早期退職制度を導入するのかを明確に打ち出します。

制度の設計

早期退職制度の導入目的が明確になった後、その目的を達成させるため、制度の内容を具体的に定めていきます。主に以下の項目を検討して制度設計を進めていきます。

① 対象者 ➡早期退職制度を利用できる対象者を限定するのかどうかを決定します。対象者を限定するのであれば、対象となる職種や年齢、勤続年数などを想定して検討を進めていきます。
② 優遇措置 ➡早期退職制度を利用できる対象者について検討した後、優遇措置の内容を検討します。優遇措置の内容によっては、想定していたほど制度の利用が進まなかったり、反対に、想定していた以上の早期退職の応募が発生し、優秀な人材が流出してしまうという事態が生じる可能性があります。そのため、早期退職制度を利用した社員に対する「優遇措置の程度」については、「程よい優遇措置」を設定する必要があります。
③ 退職理由の取扱い ➡早期退職制度を利用した社員の取扱いについて、定年退職と同様の扱いとするか否かについても、あらかじめ就業規則で明確にしておく必要があります。これは、退職理由を定年退職と同様の扱いとした場合、退職後に雇用保険から支給が行われる失業手当(基本手当)の支給開始について、自己都合退職の場合とは異なり、給付制限を受けることがないため、早期退職制度を利用する社員にとっては、定年退職と同様に扱われるかどうかが重要なポイントになります。
④ その他 ➡退職金の取り扱い、退職金の支払い日、応募可能期間、制度利用の申出先、申出の方法、退職日の設定なども規定する必要があります。

➡早期退職制度を導入するうえで欠かせないのが、制度を利用する社員に対する「優遇措置」になります。主な「優遇措置」として、以下のようなものが挙げられます。

① 退職金の増額
➡退職金の増額を優遇措置として規定する場合、一時的なコスト増が発生するため、予算設計も必要になります。
② 再就職支援
➡再就職支援のためのサポートは、会社独自で行うだけではなく、再就職支援会社や人材紹介会社などと契約を交わすことで、そのサポートを社員に提供することも可能です。
③ 有給休暇の買い上げ
➡早期退職制度利用の対象者は、一般的に中高年齢者で勤続年数が長いため、退職日までに業務の引継ぎや残務処理などで有給休暇をすべて消化できないケースが想定されます。そのような場合、会社が社員の有給休暇を買い上げる制度を設けることが認められます。有給休暇の残日数を買い上げ、その分を退職金に上乗せすることも、早期退職制度利用時の優遇措置として考えられます。
④ 特別休暇の付与
➡有給休暇のほかに、会社が独自に設定した「特別休暇」を付与することも優遇措置として考えられます。この特別休暇は、早期退職後の再就職の準備期間や、再就職までのリフレッシュ期間として活用されることが想定されます。
社員との協議

会社側で早期退職制度の制度設計が完了し、実施要領や応募基準などが決まったら労使間で協議を行います。早期退職制度は、就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」にあたりますので、労働者代表(労働組合がある場合は労働組合)と協議を行い、合意を得る必要があります。

➡労働基準法89条に定める「絶対的必要記載事項」とは、就業規則に必ず含めなければならない項目のことです。そのため、早期退職制度を導入する際は、就業規則の改定も必要になります。なお、早期退職制度は、「重要な業務執行」(会社法362条4項)に該当します。そのため、早期退職制度を導入する際には、取締役会を開催し、制度実施の決定を行う必要があります

社員への周知と説明

実施要領や応募基準などが決定、取締会の決議、労使間協議、就業規則の改定が完了したのち、社員に対して早期退職制度の概要説明を行います。就業規則改定のみの周知では不十分ですので、対象者向けの説明会を行ったり、リーフレットを作成して配布するなどして、制度の目的や趣旨を正しく理解してもらうよう、丁寧な説明を心がけることが重要です。

早期退職制度の開始

制度の開始後、早期退職に応募される社員との面談を行います。その際に改めて制度の目的や募集要項を説明します。この面談時には、社員個々の退職条件を具体的に示すことが重要です。早期退職制度による退職が適用されるためには、社員が早期退職制度に応募するだけではなく、「早期退職制度による退職に関する合意書」を作成する必要があります。

➡また、早期退職制度への応募により「退職日」が決定した後は、退職者に対して必ず「辞令」を発令することが必要になります。会社が「辞令」を発令することによって、会社と社員との間の雇用契約は効力を失うことになります。

早期退職制度は、労働者が自らの意思で、自主的に早期の退職を選択できる制度になりますので、通常は会社側の承諾は必要ありません。ただし、会社としては重要な人材が早期退職してしまうことで、業務上大きなダメージを被ることも考えられます。そこで、早期退職制度の適用には、会社の承諾を要すると規定することも可能です。

➡最初に早期退職制度の実施要領や応募基準を決定する際に、「業務上必要と認められる従業員は対象外とする」などのエスケープ条項を盛り込むことで、会社として早期退職して欲しくない人材の流出を防ぐことも可能になります。

最後に

近年、実際に早期退職制度を導入する企業は増加していますが、その制度を導入するに当たっては、綿密なスケジュールを立てて、計画的に導入を進めることが大切であり、何より会社が早期退職制度を導入する目的や趣旨を正しく理解してもらうため、社員とのコミュニケーションが非常に重要になります。

次回は、早期退職制度を利用して、自身のキャリアアップやセカンドキャリアの形成を目指す「社員の立場」から、制度を利用するメリットやデメリット、応募の際の注意点、早期退職制度の活用事例などについてご紹介していきたいと思います。

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