年収(扶養)の壁を気にせず働ける?~厚労省 支援強化パッケージについて~

これまでは、配偶者等で、扶養に入って働くが人が、一定の年収を超えると社会保険料等の負担が発生し、実際の手取り額が少なくなってしまうため、扶養から外れないよう年収を調整するために働き控えするようなケースがあり、特に年末の人手不足の要因となっていると問題視されることがありました。
➡その反面、パートタイムで働く女性で配偶者がいる方3,000人を対象に、野村総合研究所が調査したところ、半数の人が「年収の壁」がなくなればもっと働きたいと回答しており、この「年収の壁」による問題を解決するため、2023年10月に厚生労働省が新たな方針を公表しました。今回は社会保険上の年収(扶養)の壁と、厚生労働省が公表した措置について詳しく解説していきます。

扶養の基準について

一言で「扶養」といっても、大きく2つの基準に分かれます。1つは所得税や住民税などの税金に関する基準であり、もう1つは厚生年金保険や健康保険などの社会保険に関する基準になります。これらの基準を一般的に「年収の壁」といいます。今回は社会保険上の「年収の壁」に関する解説になりますが、税金に関する「年収の壁」も含め、簡単にまとめると以下の表のようになります。

(※1)配偶者控除・配偶者特別控除を受けるには夫(妻)の年収に制限があり、満額受けられるのは年収1,095万円以下、それ以上になると段階的に控除額が減っていき年収1,195万円を超えると対象外となります。
(※2)令和6年10月以降は、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人超(51人以上)となります。
(※3)令和6年10月以降は、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人以下となります。

年収とは、社会保険料や源泉所得税などが引かれる前の金額をいいます。 源泉徴収票で、種別の右に記載されている「支払金額」に記載されている金額が「年収」です。 給与だけでなく賞与も含んだ年間の総収入から、保険料や税金が控除されていない金額が年収になります。また、社会保険上の扶養についての年収(年間収入)の考え方としては、過去における収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および被扶養者に認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。

社会保険上の年収の壁について

社会保険上の年収の壁については、勤務する会社の規模によって異なり、それぞれ106万円の壁130万円の壁があります。具体的には、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が100人を超える(101人以上)会社(※)の場合は106万円、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が100人以下の会社(※)の場合は130万円が年収の壁とされます。この年収の壁を超え、社会保険への加入要件を満たすと、社会保険へ加入しなくてはならず、実際の手取り額が少なくなるため、年収調整目的の働き控えが生じるといった問題がありました。社会保険上の「年収の壁」と、社会保険の適用関係について詳しく見ていきましょう。

年収106万円の壁と社会保険の適用関係

従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が100人を超える(101人以上)の会社(※)に勤務する場合には、106万円が年収の壁となり、その年収の壁を超え、次の4つの要件を満たすと社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入しなければなりません。
(※)令和6年10月以降は、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人超(51人以上)の会社となります。

【社会保険加入の4要件】
① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2か月を超えて雇用されることが見込まれること
③ 1か月あたりの報酬が88,000円以上であること
④ 学校教育法に規定する学生・生徒等ではないこと

年収130万円の壁と社会保険の適用関係

従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が100人以下の会社(※)に勤務する場合には、130万円が年収の壁となり、年収の壁を超え、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で働く通常の労働者(≒正社員)と比較して4分の3以上である場合、社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入しなければなりません。つまり、同じ事業所で働く通常の労働者(≒正社員)の週所定労働時間が40時間である場合、パートタイマー(短時間就労者)であっても、週所定労働時間が30時間以上となれば、社会保険に加入しなければなりません。
(※)令和6年10月以降は、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)50人以下の会社となります。

ここで重要なポイントは、「年収130万円の壁」とは、社会保険加入の基準ではなく、社会保険上の扶養に入ることができなくなる年収の制限(基準)であるという点を押さえることになります。例えば、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が100人以下の会社(任意特定適用事業所を除く)の場合で、週所定労働時間が20時間の短時間労働者は、会社で社会保険に加入する必要はありませんが、時間給が高い場合などで、年収130万円の壁を超えると扶養から外れるため、自ら国民年金・国民健康保険に加入する必要があります

年収の壁と社会保険適用関係のフローチャート

(※)令和6年10月以降は、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が50人超(51人以上)となります。また、厚生年金の被保険者数が100人以下の企業でも、労使間の合意に基づき、社会保険に加入することについて申出をしている事業所(任意特定適用事業所)、または地方公共団体に属する事業所であれば、100人を超える(101人以上)の要件を満たすことになります。

年収の壁への当面の対応策について

扶養から外れないよう年収を調整するため、社会保険上の「扶養の壁」を超えないような働き方(働き控え)が問題視される中、令和5年10月20日、厚生労働省より「年収の壁・支援強化パッケージ」について、実際の申請手続き方法、各種様式が公表されました。「年収130万円の壁対策」と、「年収106万円の壁対策」について簡単にご紹介します。
➡参考リンク:厚生労働省ホームページ 「年収の壁・支援強化パッケージ」

年収106万円の壁対策について

「年収106万円の壁対策」としては、雇用保険二事業のキャリアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が新設され、令和5年10月20日より、実際の申請手続きが可能となっております。これは、年収106万円の壁を超えることで扶養を外れ、社会保険へ加入することによる手取り収入額が減少することがないよう、従業員に対する賃上げや、労働時間延長等の措置を行った事業主に対し、最大50万円の助成を行うものになります

➡具体的には、賃上げ、労働時間の延長、社会保険適用に伴う保険料負担軽減のための手当の支給、いずれかの手段またはそれらの組み合わせによって、従業員を被用者保険に適用させるとともに、最大3年間をかけて従業員の収入を増加させた事業主を支援する助成金になります。

【社会保険適用時処遇改善コースの概要】

※出典 厚生労働省ホームページ

(1)対象従業員
・キャリアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コースの対象従業員は以下の通りです。

【対象となる従業員】
① 短時間労働者で、2023年10月以降に新たに社会保険の加入対象となる従業員
② 社会保険加入日の6か月前の日以前から雇用されている従業員
③ 社会保険加入日から起算して、過去2年以内に同事業所において社会保険に加入していない従業員
④ 社会保険加入日から2か月以内に、週所定労働時間を延長するか、最長2年間「社会保険適用促進手当」の支給対象となる従業員

(2)申請におけるポイント
・キャリアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コースの申請におけるポイントを簡単にまとめると以下の通りになります。

【申請のポイント】
① キャリアアップ助成金を申請するには、まずキャリアアップ計画の提出が必要になりますが、今回の「社会保険適用時処遇改善コース」に関しては特例として、2024年1月31日までに取り組みを開始する事業主の場合、2024年1月までにキャリアアップ計画書を提出することで足りるとされています。
「社会保険適用促進手当」の支給を行う場合、就業規則の変更と従業員への周知が必要になります。
③ キャリアアップ助成金計画書に定める取り組みを6か月継続実施後に申請を行います。「手当等支給メニュー」であれば、社会保険適用促進手当を支給してから6か月経過後、2か月以内に申請、「労働時間延長メニュー」であれば、労働時間を延長してから6か月経過後、2か月以内に申請することになります。

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)に関して、さらに詳しい内容をご確認される場合は、下記厚生労働省ホームページをご確認ください。
厚生労働省ホームページ キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

年収130万円の壁対策について

「年収130万円の壁対策」としては、パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間を延長することなどにより、収入が一時的に増加した場合でも、事業主がその旨を証明することで、将来の収入見込みを総合的に判断し、最長2年間は引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みが公表されました。これにより、年末などの繁忙期が常態として人手不足となっていた業界や会社は、シフト調整に苦労することも少なくなり、また扶養内で働く従業員にとっても歓迎される仕組みだと思います。

「年収130万円の壁対策」について、事業主証明様式等も公表されています。さらに詳しい内容をご確認される場合は、下記厚生労働省ホームページをご確認ください。
厚生労働省ホームページ:年収の壁・支援強化パッケージ 「130万円の壁」への対応

総括

これら「年収の壁対策」ですが、そもそも「年収の壁」が廃止されるわけではなく、あくまで再来年の年金制度改革までの暫定措置であり、「年収の壁問題の根本的な解決策とはならないのでは?」との声も聞かれますし、確かに、人々の働き方が大きく変化している中、扶養制度におけるさまざまな規定や制限について、抜本的に考え直す時期であることは間違いないと思います。ただ、今回公表された「年収の壁対策」への取り組みを通じて、今までは扶養の範囲内で働いていた人の中にも、社会保険に加入したうえで、会社で働いていこうとマインドチェンジする人も多く出てくると思いますし、結果として、人手不足に悩む会社にとって一助となる取り組みになるのではと考えます。

➡今回公表された年収の壁・支援強化パッケージの概要や、キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コースの実際の申請等についてご不明な点があれば、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。

お気軽にお問い合わせください。
TEL:045-262-0214
受付時間:9:00-18:00(土曜・日曜・祝日除く)