外国人雇用について

2019年4月に外国人労働者受入れ拡大を目指して改正された出入国管理及び難民認定法(以下、改正入管法といいます。)におきまして、在留資格「特定技能1号・2号」が創設されました。在留資格「特定技能1号・2号」に関しましては、中小企業などの深刻化する人手不足を補うものとして、また海外との取引や進出を見越して、外国人従業員を積極的に採用しようと考える企業に引き続き注目されています。

実際、優秀な外国人を雇用したいが、在留資格取得手続き、採用後の労務管理等に不安や疑問を抱える企業も多いのが現状です。今回は外国人雇用について、おさえておくべきポイントをわかりやすく解説していきます。

外国人雇用の動向

・現在、外国人雇用が注目される理由は何か、また多くの企業が外国人の雇用に慎重である理由は何か。外国人雇用の動向を理解するためには、入管法が改正された背景や実情を理解する必要があります。

外国人雇用の背景

(1) 人材確保を課題とする中小企業の増加

・人材確保は超少子高齢化社会の日本にとって、非常に大きな問題となっています。終身雇用が当たり前でなくなった現在、企業にとっても、安定的に人材を確保することが難しくなってきているのが現状です。とくに中小企業では、経営課題の一つに「人材の確保」を挙げる企業も多く、しかしその一方で、外国人を受け入れる体制が整った会社は少なく、外国人雇用を活用できていないのが現状です。

(2)グローバル化への対応

・多くの業種、業界でグローバル化が進みつつあります。日本の市場のみでの生き残りが難しくなる中、海外販路などのグローバル化は、企業にとって重要な課題です。英語はもちろんのこと、他言語への対応をしていくために、海外出身の人材を雇用するといったケースもよくあるケースです。

(3)インバウンドへの対策

・近年では観光ビジネス事業を中心に、インバウンド客への対応人材として外国人雇用が進んできました。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、旅行者が一気に激減し、非正規の外国人労働者などは、一気に不安定な雇用状況となっています。インバウンド需要の減少は日本経済に大きな打撃を与えており、今後の外国人雇用にも大きな影響が及ぶことになると思われます。

外国人雇用の実情

厚生労働省が公表している令和元年10月末時点での「外国人雇用状況」によると、外国人労働者数は1,658,804人で、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新するなど、増加を続けています。

ただし、日本で働く外国人労働者数は増加しているものの、業種や都市部など地域が限られているのが実情です。外国人労働者が多い地域や、あまり多くない地域、また、外国人の多い業種や職種もあれば、まったく外国人雇用が行われていない業種や職種もあります。以下、外国人雇用で起こりうる問題などについて詳しく見ていきます。

(1)日本語や英語力の不足で起こるコミュニケーションの問題

・はじめて外国人人材を受け入れる企業で、とくに問題になるのが、言語の問題になります。日本の企業が求める日本語レベルと、外国人の日本語能力のギャップにより、コミュニケーションがスムーズに行えないといったケースがよくあります。また日本語能力が低くても、英語力はビジネスレベルであるにもかかわらず、受け入れ側の日本企業の従業員の英語力が足りず、コミュニケーションギャップが生まれるといったケースもあります。

日本の働く環境のなかに、外国人を当てはめようとした結果、ミスマッチが生じてしまっているのが原因です。さらに異なる文化的背景を持つ外国人とは、商習慣や職場慣習が異なることが原因で発生するトラブルもあるようです。

雇用する外国人の日本語能力をN1(※)以上とするなど、日本語でのコミュニケーションを必須とする企業もありますが、果たして今後のビジネス環境において、外国人の日本語能力をどの程度必要とするかは再考が必要な時期に来ているのではないでしょうか。例えば、飲食店などのホールスタッフも、注文をタブレットで受けることで、日本語能力が多少不足していても業務を遂行することが可能になります。

※日本語能力試験にはN1、N2、N3、N4、N5の5つのレベルがあります。いちばんやさしいレベルがN5で、いちばん難しいレベルがN1になります。

(2)入管法をはじめとした各種手続に関する知識の不足

・外国人を雇用するためには、入管法に基づいた申請など手続きに関する知識が必要になります。外国人を雇用するには、適切な雇用が行える企業かどうか、外国人の人権を守るため、雇用する側である企業の信用度も慎重に審査されます。日頃から適切に労務管理を行なっているかどうか、社会保険等の加入状況、資産状況など、受け入れる環境が整っていないと審査に時間がかかる、もしくは在留資格が許可されない場合もあります。

信頼度の高い企業として認識されるために、日頃からコンプライアンスを遵守し、健全な経営を行っている企業であるほど、手続きも迅速に進めることができます。

(3)安価な労働力としての認識

・日本企業の意識も以前に比べ、認識に変化はあるとは思いますが、いまだ一部の企業では、外国人を「安価な労働力」として認識している企業があるのも事実です。しかし、著しく低い給与、社会保険加入手続きを行わない、コンプライアンスを遵守していない企業は、入管法に基づく審査が通らないだけではなく、優秀な人材が集まらず、人財確保の困難という経営課題に直面することとなります。

在留資格について

・2019年4月より、新しい在留資格である特定技能が創設され、外国人雇用をめぐる状況は変化しています。実際に外国人従業員を雇用するといった場合に備え、ポイントを確認しておきましょう。

就労が認められる在留資格

外国人を雇用するにあたって、在留資格について正しく理解しておく必要があります。在留資格は、外国人が日本に入国した後の滞在と活動内容における許可・資格のことです。誤って認識されることが多いのが、ビザ(査証)との違いです。在留資格とビザは異なります。ビザ(査証)は、外国人が日本に入国する際の許可・資格です。ビザ(査証)は外務省管轄で、大使館や領事館で発給されますが、在留資格は入国後の許可であり、法務省の管轄となり出入国在留管理庁で発給されるものです。

また就労ビザという言葉がありますが、日本で就労が認められているいくつかの在留資格を総称して就労ビザと呼んでいるだけであって、厳密には就労ビザというものはありません。日本に滞在している外国人は、必ず許可を受けなければならないのが在留資格です。在留資格には、いくつもの種類があり、「身分や地位に基づく在留資格」、「就労が認められる在留資格」、「就労が認められない在留資格」「就労の可否は指定される活動により決定される在留資格」に分類されます。

在留資格がない状態で日本に在留した場合、もしくは在留期限が切れてしまった場合は、不法滞在となります。また在留する外国人が、偽りや不正により入国の許可を受けた場合や、在留資格に基づく活動を一定期間行わないで在留していた場合などは、在留資格が取り消されることになります。

(1)身分や地位に基づく在留資格

永住者(永住権を得た者)
日本人の配偶者等(日本人の配偶者、実子、特別養子など)
永住者の配偶者等(永住者・特別永住者の配偶者など)
定住者(第三国定住難民、日系3世、中国残留邦人など)

(2)就労が認められる在留資格

外交(外国政府の大使、公使、総領事など)
公用(外国政府大使館・領事館の職員など)
教授(大学教授など)
芸術(作曲家、画家など)
宗教(宣教師など)
報道(記者、カメラマンなど)
経営、管理(企業の代表取締役、取締役など)
法律、会計(弁護士、公認会計士など)
医療(医師、歯科医師など)
研究(政府関係機関や企業などの研究者)
教育(中学・高校などの語学教師)
技術、人文知識、国際業務
(エンジニア、通訳、翻訳者など)
企業内転勤(外国の事業所からの転勤)
介護(介護福祉士など)
高度専門職1号/2号
(イ:教授など ロ:技術者など ハ:企業の代表取締役など)
興行(俳優、歌手、ダンサー、プロスポーツ選手など)
技能(調理師、パイロットなど)
技能実習1号/2号(技能の習得をする者)
特定技能1号/2号(特定産業分野での就労者)

(3)就労が認められない在留資格

文化活動(日本文化研究者など)
短期滞在(観光客、会議参加者など)
留学(留学生)
研修(技術、技能の習得をする者)
家族滞在(就労する外国人や留学生の配偶者や子)

(4)就労の可否は指定される活動により決定される在留資格

特定活動(ワーキングホリデー、外国人看護師など)
資格外活動許可とは

本来、在留資格で認められた活動以外の活動は認められていません。しかし、外国人留学生がコンビニでアルバイトをしていたり、居酒屋のスタッフとして働いているのを目にすることもあるかと思います。本来ならば就労が認められない「留学」の在留資格なのに、なぜアルバイトができるのでしょうか。それは「資格外活動許可」として、アルバイトをすることが認められているからです。入管法では、「在留資格の活動の遂行を阻害しない範囲内で」という条件付きで、在留資格以外の活動を許可することとされています。留学生の場合は、学業に支障がない範囲で、アルバイトをすることが可能になります。

(1)資格外活動許可を受けて働ける時間

・資格外活動の許可がある場合でも、無制限に働けるわけではありません。入管法第19条では、活動の遂行を阻害しない範囲を定めています。

1週間の就労時間は28時間以内
学則で定められた長期休暇期間(夏休みや冬休み)は、1日8時間以内

この制限を超過すると、外国人本人は「1年以下の懲役もしくは禁錮若しくは200万円以下の罰金」、雇用した企業は「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又は併科」の罰則が適用されます。アルバイトで外国人を雇用する場合は、労働時間管理を慎重におこなう必要があります。

特定技能1号・2号とは

日本では外国人の単純労働は、原則として禁止されています。しかしながら、生産性向上や人材確保の施策を行なってもなお深刻な人材不足にある業界等に対応するため、改正入管法で新たに在留資格が創設されました。その新しい在留資格が特定技能1号・2号です。

特定技能1号とは

・特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする業務に従事する在留資格です。

(1)技能レベル ・業務に従事する際に、一定水準以上の業務を行える技能レベルが必要です。
(2)日本語能力レベル ・生活や業務に必要な日本語を日常会話レベルで話せることが必要です。
(3)在留期間 ・1年、 6か月、または4か月更新(通算5年まで)
(4)家族の帯同 ・不可
(5)対象となる職種 介護/ビルクリーニング業/漁業/飲食料品製造業/外食業/素形材産業/産業機械製造業/電気・電子機器関連産業/建設業/造船・船用工業/自動車整備業/宿泊業/農業/航空業
特定技能2号とは

・さらに熟練した技能を有する者に、試験等の合格を条件に与えられる在留資格です。

(1)技能レベル
・試験等の合格が必要です。
(2)日本語能力レベル ・試験などでの確認は不要です。
(3)在留期間 ・3年、 1年、または6か月更新
(4)家族の帯同 ・要件を満たせば可能
(5)対象となる職種 ・建設業/造船・船用工業

外国人の技能実習生受け入れとトラブル防止について

外国人就労の在留資格の一つに技能実習があります。最近では外国人を低賃金で、長時間就労させたり、技能実習生の失踪など法令違反やトラブルのニュースのイメージが強いかもしれません。ただ、本来この技能実習制度は、外国人実習生に日本の技術・技能を伝授し、母国に持ち帰って活用してもらうという国際貢献を趣旨としています。この趣旨のもと、外国人実習生の受け入れ先企業などに対する監視体制、実習生からの相談や通報体制の設置など、法令遵守の強化が進められつつあります。外国人技能実習制度をトラブルなく運用していくために、必要なことを確認していきましょう。

技能実習について

・技能実習には、「企業単独型技能実習」と「団体監理型技能実習」の2つがあります。

(1)企業単独型技能実習 ・日本企業の海外支店や現地法人などから現地職員を実習生として受け入れます。
(2)団体監理型技能実習 ・非営利の管理団体(商工会議所、協同組合等)が受け入れ、傘下の企業などで実習生として受け入れます。

※多くの企業では、「団体監理型技能実習生」として受け入れるケースが多く、実習期間は入国後3年(最長5年)とされています。

法令違反やトラブル防止のための監督強化

・技能実習制度については、これまで入管法で規定されていましたが、相次ぐ法令違反やトラブルを背景に、平成29年に「技能実習法」が新たに施行されました。これにより、実習生を受け入れる管理団体は許可制となり、実習先は届出制となりました。また技能実習計画も認定制となるなど、管理団体への監督強化が進められています。法令違反などの改善命令などに従わなければ、管理団体などは許可が取り消される可能性もあります。

新型コロナウイルスの影響(特定活動への在留資格変更)

・新型コロナウイルスの感染拡大による企業の経営悪化の影響で、就労する外国人技能実習生について、特例として「特定活動」への在留資格の変更を認められることになりました。これにより技能実習生は、別の業種・職種の企業に転職できることになります。

労災発生時の報告義務

・外国人を雇用する事業場で労災事故が発生した際には、国籍と在留資格の報告義務が課されることになりました。これは改正入管法へ対応するため、監督指導などの充実・強化が狙いです。特定技能の在留資格を持つ外国人を雇用した事業場に対して、重点的な監督指導が実施されます。また、外国人の労働災害防止対策の実施、都道府県労働局などによる外国人向け相談態勢の整備も図られています。

外国人雇用時における就業規則作成の注意点

常時10人以上の従業員を使用している事業場では、それが外国人であっても就業規則は当然に必要です。日本の商習慣や職場環境がわからない外国人の従業員の方々に、安心して働いてもらうには特に配慮が必要になります。

就業規則を周知する

・すでに就業規則がある企業であれば、外国人従業員が理解できる言語に翻訳して周知するのが好ましいと言えます。しかしながら、就業規則やその他すべての諸規定を翻訳するのは大変という場合には、まずは対象となる外国人従業員の労働条件や企業内の必須ルール、違反した場合についての規定部分などをまずは翻訳することをお勧めいたします。

外国人従業員にも対応できる就業規則を作成する

・外国人を雇用する場合、在留資格にあるように、外国人個人の専門知識や技術に応じて、労働契約を締結することになります。従来の日本人従業員のみの就業規則しか作成していない場合、そうしたケースに対応できないことも想定されます。はじめて外国人従業員を受け入れる際には、個別の契約にも対応しうる就業規則への変更も検討が必要になってきます。

外国人雇用に関するQ&A

卒業した外国人留学生をそのまま採用できますか?

活動に応じた在留資格変更許可申請を行い、許可を受ければ可能です。4月に入社が内定している場合、卒業見込みの段階で、在留資格変更許可申請を行うことができます。

外国人雇用にあたり、支援してもらえる機関はありますか?

公共職業安定所の「外国人雇用管理アドバイザー」無料相談などをご利用することが可能になります。また、東京・名古屋・大阪・福岡の「外国人雇用サービスセンター」では、専門的・技術的分野の外国人、留学生の就職支援を行っています。新卒の外国人留学生を採用したい企業向けの無料相談なども実施されています。

※東京外国人雇用サービスセンター

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-foreigner/

最低賃金を支払っていれば、日本人従業員に支給する手当などは支給する必要はないのでしょうか?

賃金支払いの5原則(通貨払い・直接払い・全額払い・毎月最低1回の支払い・一定期日払い)は守らなくてはいけません。そして、同一の業務内容で、業務の責任の程度も同様であれば、国籍に関係なく均等待遇が必要になりますので、その場合は日本人従業員と同様に手当等の支給が必要になります。

外国人と雇用契約をする場合、日本語の雇用契約書で良いのでしょうか?

厚生労働省が外国語の雇用契約書のひな形を提供していますのでそちらをご使用いただくことをお勧めいたします。詳細は厚生労働省のホームページをご確認ください。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040325-4.html

まとめ

2019年4月の入管法改正以降、外国人雇用への関心は高まる一方、関係法令などを深く理解している企業はまだ少ないように感じられます。外国人雇用に関する法律は非常に多岐に渡りますので、それらすべてに精通することは非常に困難です。

また、単に労働力の確保のための雇用ではなく、国籍を問わず、大事な従業員として迎え入れることができる体制を構築することが必要になります。現在外国人を雇用している企業はもちろんのこと、今後採用を検討している企業も、今一度、関連法令などを振り返り、不明点は関連機関に相談するなどして外国人従業員を受け入れる体制づくりの整備をお勧めしております。

少子高齢化が進む日本にておいては、今後ますます外国人雇用が推進されていくことになります。当事務所では、外国人従業員の雇用にあたり、在留資格認定証明書交付申請や在留資格変更、在留期間更新許可申請だけではなく、採用後の労務管理、外国人雇用に対応できる就業規則の作成に関しましてもサポートさせていただきます。ご不明な点があればぜひ一度ご相談ください。

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