育児休業終了後の職場復帰について

小学校入学前のお子様(未就学児)の育児をしている女性のうち、73.4%の女性が仕事をしながら育児を行っています(就業構造基本調査/総務省統計局)。これは、育児休業や時短勤務など、育児と仕事の両立に向けた制度が活用しやすくなったことが背景にあると考えられます。その一方で、育児休業を取得するにあたり、「元の部署・元の業務で職場復帰できるのかしら...。」と不安に思う方も多いと思います。

➡では、育児休業を取得していた労働者が、元の部署や業務での原職復帰を強く希望しているにも関わらず、以前とは異なる部署や業務へ配属させたり、他の事業所へ異動を命じるような人事権行使に問題はないのでしょうか?

育児・介護休業法における規定

まず、前提となるお話になりますが、「育児休業」とは、原則1歳未満の子を養育するための休業で、「育児・介護休業法」という法律で定められています。育児休業取得の要件を満たす労働者から育児休業取得の申出があった場合、それにより一定期間、労働者の就労(労務提供)義務はなくなります。「うちの会社では育児休業について就業規則で定めていないので、育児休業と取ることは認められない。」と主張しても、労働者は法律に基づき育児休業を取得することができ、会社側は休業の申し出を拒むことはできません

ただし、この育児・介護休業法には、育児休業を取得していた労働者を原職に復帰させることを会社に義務付けるような規定はありません。つまり、育児休業を取得していた労働者が、元の部署や業務での原職復帰を強く希望しているにも関わらず、原職復帰させないことが直ちに違法になるものではありません

厚生労働省告示第509号で定められる指針

厚生労働省告示第509号(子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針)において、「育児休業後においては、原則として原職または原職相当職に復帰させるよう配慮すること」と定められています。

育児・介護休業法では、事業主に対して、育児休業取得者を原職へ復帰させることを義務づける規定はありませんが、育児休業終了後の職場復帰時の配置や労働条件によっては、育児・介護休業法で禁止される不利益取扱に該当し、違法・無効と判断される可能性もあります。

育児休業取得者への不利益取扱いの禁止

育児・介護休業法では、「育児休業後における賃金、配置その他の労働条件に関する事項については、あらかじめ就業規則等で定め、労働者に周知させるよう努めなければならない。」と規定されています。ですので、育児休業終了後、元の部署や業務以外での職場復帰の可能性がある場合には、配置される可能性のある部署や、担当する可能性のある業務、その他労働条件について、育児休業取得者にしっかりと伝えなければなりません。また、育児・介護休業法では、育児休業取得者に対する不利益取扱いが禁止されています。

不利益取扱いの禁止(原則)

<育児・介護休業法第10条>
事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第9条の5第2項の規定による申出若しくは同条第4項の同意をしなかったことその他の同条第2項から第5項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

このように、育児・介護休業法では育児休業を取得することを申し出たり、実際に育児休業を取得したことを理由とする、労働者に対する不利益取扱いは禁止されており、労働者が育児休業の申出または取得したことをきっかけ(契機)として行われた不利益取扱いは、原則として育児休業の申出または取得をしたことを理由として不利益取扱いがなされたものと解されます。また、行政解釈として、育児休業終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合、その不利益取扱いは、育児休業の申出や取得したことを契機としてなされた不利益取扱いと判断されます

確かに、育児・介護休業法において、事業主に対し、育児休業取得者を原職へ復帰させることを義務づける規定はありません。しかしながら、育児休業取得者を原職へ復帰させず、別の部署や業務で職場復帰させた場合、その配置変更自体が「育児休業取得を理由とした不利益取扱い」と判断される可能性があり、その場合、その配置自体が違法であり、無効とされます。

不利益取扱いとなる行為として、以下に掲げるものが該当します(厚生労働省告示第509号指針 第2の11(2))。

不利益取扱いとなる行為
① 解雇すること
② 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと(雇止め)
③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること(契約更新上限の引き下げ)
④ 退職の強要または正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと
⑤ 自宅待機を命ずること。
※ 事業主が、育児休業の終了予定日を超えて休業することを強要することも含まれます。
⑥ 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限または所定労働時間の短縮措置等を適用すること
⑦ 降格させること
⑧ 減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと
⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
⑩ 不利益な配置の変更を行うこと
⑪ 就業環境を害すること
※業務に就かせなかったり、専ら雑務のみを命じる行為はこれに該当します。
不利益取扱いの禁止の例外

以上、解説したとおり、育児休業等の申出または取得したことを契機として不利益取扱いが行われた場合、原則として法違反となります。ただし、以下の例外①②に該当する場合は、法違反とは解されません

例外① (a)業務上の必要性から不利益取扱いをせざるをえず、かつ
(b)業務上の必要性が、当該不利益取扱いによりうける影響を上回ると認められる特段の事情が存在するとき
例外② (a)労働者が当該取扱いに同意している場合において、
(b)当該育児休業及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が、当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて、事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

育児休業取得者への配慮義務等

育児・介護休業法では、育児休業取得者への不利益取扱いの禁止以外にも、育児休業取得者への配慮義務等が定められています。

<育児・介護休業法第22条>
(雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置)
事業主は、育児休業申出等が円滑に行われるようにするため、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
1 その雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
2 育児休業に関する相談体制の整備
3 その他厚生労働省令で定める育児休業に係る雇用環境の整備に関する措置

<育児・介護休業法第26条>
(労働者の配置に関する配慮)
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

育児休業終了後、労働者を元の部署や業務ではなく、他の部署や他の業務に配置する場合であっても、育児休業取得者への不利益取扱いの禁止や配慮義務等の規定をしっかりと遵守しているのであれば、育児休業終了後の職場復帰にあたって、労使間で大きな問題は生じないと考えられます。

総括(まとめ)

育児休業取得者が職場復帰する際、休業前にいた元の部署、元の業務へ戻ることが最も自然であり、育児休業を取得される方もそう望まれるのは当然だと思います。一方、会社としても育児休業取得者の替わりとなる人員を確保する必要に迫られることもあり、育児休業終了時には社内の人員体制・業務体制が大きく変化していることも考えられます。育児休業取得者が原職復帰できないのであれば、育児介護休業法に定める不利益取扱いの禁止・配慮義務等を遵守し、育児休業終了後の配置変更について、事前に説明し理解を得ることが重要です。また、職場復帰後の労働条件についても育児休業規定等に明記し、事前の周知が必要になります

あたり前ですが、育児休業取得者がスムーズに職場復帰するためには会社との間での話し合いは不可欠です。また、産後の母体回復の程度やお子様の健康状態など、不確定な要素もあるため、育児休業開始前だけでなく、育児休業期間中の話し合いも非常に大切です。厚生労働省では、中小企業が、自社の従業員の円滑な育休の取得及び育休後の職場復帰を支援できるよう「育休復帰支援プラン策定マニュアル」を作成・普及していますので、こちらもぜひご活用ください

➡参考リンク:厚生労働省 育休復帰支援プラン策定のご案内

総括しますと、国の指針(厚生労働省告示第509号)でも、育児休業終了後は、原則として原職又は原職相当職(※)に復帰させるよう配慮することが事業主に求められていますので、私個人の見解としては、育児休業取得者が元の部署・業務での職場復帰を希望するのであれば、会社側としては、原職復帰できる配置を最後まで検討すべきだと考えます。

(※)原職相当職と判断されるためには以下の条件を満たす必要があります

① 育児休業終了後の職制上の地位が育児休業取得前より下回っていないこと
② 育児休業取得前と育児休業終了後で職務内容が異なっていないこと
③ 育児休業取得前と育児休業終了後で勤務する事業所が同一であること

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